地政学を独習したい人は必読、おすすめの良書15選

年々軍事力を強めている中国をはじめとしたアジア諸国の影響で、日本の国防を考える上で外せない知識となってきた「地政学」。この時代において極めて重要な学問なのですが、欧米と違い、日本では防衛大学校でしか専門的に学ぶことができません。

そこで今回は、私がこれまで読んできた本の中から「独学で地政学を学ぶ際の参考となる」と思う15冊をピックアップ。時代考証が古く、今の時勢に適さないものもありますが、地政学の基本概念を理解する上で非常に役立つ本ばかりなので、興味ある方はぜひ読んでみてください。

地政学入門―外交戦略の政治学/曽村保信

この本が書かれたのは約20年前。ドイツ・アメリカ・イギリス地政学の発展の歴史と合わせて、基本的な地政学の概念が丁寧に説明されている良書です。図が古いのでやや見にくさは感じるものの、専門書が少ない地政学の分野においては最も手軽かつ安価で手に入る入門書と言ってもいいのではないでしょうか。はじめて地政学の本を買うならこの本一択ですね。

※追記

2017年7月に中公新書「地政学入門 改版」が発売されました。これに伴い、旧版のほうは紙・電子書籍ともに取扱が終わるらしい。先程Amazonで確認したところ、旧版の電子書籍はすでに削除されていました。

今回の改訂では、行間を広げたりデジタル印刷に対応させるなどの変更がなされ、読みやすさが多少改善されたようです。書店で確認しましたが、旧版に比べると明らかに文字のかすれが減っていました。これに伴いページ数も旧版328P→改版400Pになりましたが、内容はほとんど変更なし。よって、旧版の「地政学入門」を持っている人はわざわざ「地政学 改版」を買い直す必要はないと思います。

東アジア動乱 地政学が明かす日本の役割/武貞秀士

韓国、中国の執拗な日本外し、北朝鮮とロシアの接近、東南アジア諸国と中国の衝突など、東アジア周辺の近年の情勢を踏まえて各国の外交戦略を「地政学的観点」から分析している。角川はよくKindleでセールをやっているので、電子書籍で購入する方がお得。

領土の常識/鍛冶俊樹

著者の前作『国防の常識』の続編にあたる本書は、戦争・軍事戦略から「領土」を根本的に解説しています。米・中・露をはじめとする大国の領土拡張の動向や、尖閣・竹島・北方四島など日本が抱える領土問題に関しても具体的かつ論理的に分析しているのでとても理解しやすい。

地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図/ロバート・D・カプラン

中東、インドなどの情勢についての理解を深めるためには、その地形や地図を知っておくことが何よりも大切。初期地政学の解説からその問題点に関しても言及しているので、地政学自体には興味がない方でも、中東の歴史に興味があれば十分に楽しめる内容です。

右であれ左であれ、わが祖国日本/船曳建夫

著者は過去五百年の歴史をふまえて、日本を信長型の「国際日本」秀吉型の「大日本」家康型の「小日本」という三つのモデルに類型化し、「中国」「ロシア」「西洋」という三つの主勢力という枠組みから、憲法第九条、集団的自衛権、核武装論、六カ国協議への対応策を導き出しています。今の国際情勢と、「右でもなく左でもない日本」といとして物事を捉える視点が新鮮で面白い。

マッキンダーの地政学―デモクラシーの理想と現実/H・J・マッキンダー

国際関係を常に動態力学的に把握しようとする“ハートランドの戦略論”の理解が深まる一冊。地政学の祖マッキンダーの幻の名著とも言われています。地政学を学ぶなら必ず目を通すべき一冊であり、バイブル的な位置づけ。本書を読む時は手元に世界地図を用意すると、より理解が深まると思います。

マハン海上権力史論/アルフレッド・T・マハン

クラウゼヴィッツ『戦争論』、リデル・ハート『戦略論』とならび、1890年の刊行以来、世界の海軍戦略に決定的な影響を与えてきた不朽の名著。平和時の通商・海軍活動も含めた広義の「シーパワー理論」を構築したマハンの代表的著作。これも地政学を学ぶ上で避けて通れない一冊です。
なお、学術文庫からは「マハン海上権力論集」も出版されています。こちらはkindleでも配信中。

“悪の論理”で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国~/奥山真司

近年、アメリカの経済力・発言力の低下と中国の台頭により、近年世界の勢力図が大きく変わりつつあります。日本の同盟国アメリカにとって国益の第一は地政学上、日本でないのは明らか。本書では、アメリカが日本を捨て中国に委譲するとき、 戦略なき日本は世界地図か姿を消すのか?という考察がかなり緻密に行われています。日・米・中の三国の未来を地政学的観点から捉えた良書。

平和の地政学-アメリカ世界戦略の原点/ニコラスJ・スパイクマン

戦後から現在までのアメリカの国家戦略を決定的にしたスパイクマンの名著の完訳版。本書は、スパイクマンの講義用のノート・スライド資料を中心に作られており、スパイクマンが提唱した、ユーラシア大陸の沿岸部を重視する「リムランド論」の概説が、51枚の地図と共に詳しく解説されています。地政学・軍事学を学ぶ際には必ず目を通しておきたい一冊。

進化する地政学―陸、海、空そして宇宙へ/コリン・グレイほか

本書は、現代戦略研究の第一人者コリン・グレイと、ジェフリー・スローンによって編纂された、古典地政学を現代的な視線で再考察した本です。現代らしく、宇宙空間やIT時代の地政戦略に関しても言及されており、特にIT社会に古典地政学の理論を当てはめる所なんかは、他の地政学本にはない面白さがありますね。

胎動する地政学―英、米、独そしてロシアへ/コリン・グレイほか

イギリス海軍史、アメリカの「戦争方法」、さらにナチスドイツ、ソ連崩壊後のロシアまで「戦略学」からのアプローチによる貴重かつ重要な考察を精選。また各章ごとに訳者の解説がついているのも有難い。本書の構造は以下のようになっています。

・逃れられない地理

・帆船時代における天候、地理、そして海軍力

・地理と戦争の関係について

・ドイツ地政学 ハウスホーファー、ヒトラー、そしてレーベンスラウム

・ロシアの地政学における事実と幻想

地政学ではあまり取り上げられることのないロシアの地政学についても取り上げられているため、とても希少な本であると言えます。

日本地政学―環太平洋地域の生きる道/河野収

日本、台湾、フィリピンやシンガポールなどの海洋アセアン諸国、オーストラリア・ニュージーランドからなる環太平洋地帯を分析しています。マイナーな本ですが面白い。

中国の「核」が世界を制す/伊藤貫

アメリカの政治学者や軍事学者と日本の国防につて議論を交わした筆者による意欲作。地政学だけでなかく、対中外交の問題点についても分析されているため、外交政策を考える上でも外せない良書。

地政学で世界を読む―21世紀のユーラシア覇権ゲーム/Z・ブレジンスキー

地政戦略家として知られるアメリカ人著者が、ユーラシアを舞台に繰り広げられる日、米、中、英、仏、露、印など大国小国のパワーゲームを解説しつつ、アメリカが今後も覇権を維持し続けるためにはどうすればいいのか、を地政学的に分析しています。米同時テロ後の激動を踏まえ、著者の最新インタビューも掲載するという太っ腹。

『紺碧の艦隊』の読み方〈3〉紺碧要塞の地政学/荒巻義雄

超人気の〈紺碧〉シリーズでおなじみのシミュレーション・ノベルの第一人者が、ファンの熱い期待に応えて書き下ろす戦略裏読みシリーズ第3弾。本書は第1部で「大高地政学の基礎原理」を明らかにし、第2部で「世界平和への地政学」を提唱する2部構成。巻末には「簡略地政学用語解説」、読者参加の「付録 練習問題」も収録。

2015年11月追記

文化放送で放送中のラジオ「オトナカレッジ」で、「世界史で学べ!地政学」の著者、茂木誠氏が地政学について講義されていました。

茂木氏が監修した「マンガでわかる地政学」、氏の代表作「世界史で学べ!地政学」は、愛知大学、近藤暁夫准教授による「『ポップ地政学』本の掲載地図批判ー主に高校地理レベルの誤りについて」で、「致命的な地図掲載数ワースト5」の1位と4位を獲得しています。茂木氏の著書だけでなく、ポップ地政学本は内容に難ありなものが多いですね。

▼近藤暁夫准教授のスライドはこちらから

http://taweb.aichi-u.ac.jp/geogr/20180322AkioKondo.pdf

2016年3月追記

Kindleの3月分月替りセールで高橋洋一氏の「世界のニュース分かる!図解地政学入門」が50%OFFになっていたので購入し、読んでみました。

本書では「地政学は戦争の歴史を学ぶこと」という謳い文句の通り、地政学を国際情勢や戦争に絡めて解説しています。しかし大半は地政学というよりも戦争の解説になっているため、地政学の基本概念を学びたい初学者向けの入門本には適さないと思います。ロシアの地政学について言及している点は評価できますが、これも「胎動する地政学―英、米、独そしてロシアへ (戦略と地政学)」の方が詳しいので、どうせ読むなら後者の方をおすすめします。

地政学はやろうと思えば独習で習得するのも(かなり根気が必要にはなりますが……)決して不可能ではありません。今回ご紹介した本を一通り読めば、きっと日本の防防衛政策をまた違った視点で捉えることができ、世界情勢の見方も変わってくるはずです。

……なんて偉そうに言ってもみましたが私もまだまだ勉強中の身!今後も理解を深めるため地政学本を片っ端から読んでいくつもりです。新しい本を見つけ次第このエントリーも随時更新していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。