タイタス・アンドロニカス翻訳比較

画像がありません

『タイタス・アンドロニカス』の引用比較

PSYCHO-PASS1期8話、王陵璃華子の処刑シーンで引用された「タイタス・アンドロニカス」は一体どの翻訳本なのか。比較的入手しやすい以下3冊の当該箇所を確認してみました。

・福田恒存(つねあり)訳(新潮文庫)

・松岡和子訳(ちくま文庫)

・小田島雄志訳(白水Uブックス)

まずは槙島聖護が王陵璃華子を見て冷ややかに言い放つ最初の台詞。タイタス・アンドロニカスでは第二幕・第三場の引用にあたるタモーラの部分。

槙島聖護版

ゴートの女王、タモーラの台詞だったかな?かわいい息子たちからのご褒美を奪うことになる。あの子たちの情欲は満たしてやらねば

(槙島聖護アニメ「PSYCHO-PASS」8話引用序盤)

福田恒存訳

タマラ:それでは息子達から褒美の手間を 賃を取上げる事になる。もう沢山、さあ、この子達にお前の体を存分楽しませてやらう。

(『タイタス・アンドロニカス』福田恒存/新潮文庫)

松岡和子訳

タモーラ:それじゃあ、かわいい息子たちからご褒美を奪うことになる、いいえ、あの子たちの情欲は満たしてやらなくては。
(『タイタス・アンドロニカス』p70、松岡和子/ちくま文庫)

小田島雄志訳

タモーラ:そうすると息子たちのお駄賃を奪うことになる。やっぱりあの子たちの情欲を満足させてやりましょう。

(『タイタス・アンドロニカス』p65、小田島雄志/白水Uブックス)

台詞自体が短いせいか、どちらもあまり大差なし。次は、シーンと引用のシンクロ演出で話題になった「狩り」の場面。タイタス・アンドロニカス第二幕・第二場からの引用になります。

槙島聖護版

さあ、狩りが始まるぞ、しらじら明けの朝、野原はかぐわしく香り、森の緑は濃い。ここで猟犬を解き放ち、声高く吠えさせよう。真夜中になるとここは、何千もの悪魔やシューシューと威嚇の音を立てる蛇、何万もの子鬼や体のふくれ上がったヒキガエルどもが集まって、身の毛もよだつ狂乱の叫び声を上げる。

(槙島聖護アニメ「PSYCHO-PASS」8話引用序盤)

福田恒存訳

タイタス:猟が始る、朝まだき、空は白〻と明け初めた、野には甘い香りが漂ひ、森の樹〻は美しい緑に輝いてゐる、さあ、猟犬を解き放ち、その吠声に皇帝と美しき花嫁の眠りを醒させろ、そして皇帝の弟君も。猟師共に命じ、角笛を高らかに鳴り響かせ、宮廷をその木霊で満すのだ。

(中略)

タマラ:陽の光も射さず、棲みつく生き物など何処にもゐはしない、ただ真夜中に騒ぐ梟と不吉な鴉がゐるだけ、さうして奴等は私にこの怖しい穴を見せて、かう言つたのだよ、ここでは、真夜中になると数知れぬ悪魔や、不気味な舌の音を立てる蛇、体を膨ませた無数の蟇や小鬼が化けた針鼠が怖し気な声を上げて一斉に鳴き交す、そして、それを耳にした生き物は皆、そのまま気が狂つてしまふか、忽ちその場で死んでしまふのだと。

(『タイタス・アンドロニカス』福田恒存/新潮文庫)

松岡和子訳

さあ、狩りが始まるぞ、しらじら明けの朝、野原はかぐわしく香り、森の緑は濃い。ここで猟犬を解き放ち、声高く吠えさせて…(中略)…真夜中になるとここは、何千もの悪魔やシューシューと威嚇の音を立てる蛇、何万もの子鬼や体のふくれ上がったヒキガエルどもが集まって、身の毛もよだつ狂乱の叫び声を上げる。

(『タイタス・アンドロニカス』p55・p64 松岡和子/ちくま文庫)

小田島雄志訳

さあ、狩りのはじまりだ。朝はしらじらと明け、野原は花の香りに満ち、森は緑を濃くしている。ここで猟犬を解き放ち、声高く吠えさせ…(中略)…真夜中になると、ここには何千という悪魔やチョロチョロと舌を出す蛇、何万という子兎やからだをふくれあがらせるヒキガエルが、寄り集まって、ものすごい狂乱の声を上げる。

(『タイタス・アンドロニカス』p51・p60 小田島雄志/白水Uブックス)

こうしてみると、松岡訳が槙島のニュアンスに近いことが分かりますね。福田訳は韻文箇所が分かりにくく、小田島訳は舞台用で言葉選びがカジュアルな印象。というわけで、槙島が引用したのは「ちくま文庫版・タイタスアンドロニカス」で決定です!

【おまけ】槙島聖護が読んでいる本まとめ

槙島聖護が作中で読んだ本の一覧です。

書名 作者名
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF) ウィリアム・ギブスン
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? フィリップ・K・ディック
一九八四年 (ハヤカワepi文庫) ジョージ・オーウェル
深夜プラス1〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV) ギャビン・ライアル
十二夜(ちくま文庫) W. シェイクスピア
マクベス(ちくま文庫) W. シェイクスピア
ハムレット (ちくま文庫) W. シェイクスピア
タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫) W. シェイクスピア
大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) オルテガ・イ ガセット
旧約聖書 創世記 (岩波文庫) 関根 正雄訳
闇の奥(山交社) ジョセフ コンラッド
ガリヴァ旅行記 (新潮文庫) ジョナサン・スウィフト
赤と黒 (上) (新潮文庫) スタンダール
善悪の彼岸 (新潮文庫) フリードリヒ・ニーチェ
裁きの門 (創元推理文庫) マーセデス・ラッキー
吸血鬼カーミラ (創元推理文庫) レ・ファニュ
方法序説ほか (中公クラシックス) デカルト
失われた時を求めて (岩波文庫) マルセル・プルースト
パンセ (中公文庫) パスカル
人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫) ジャン=ジャック・ルソー
毛皮のマリー―戯曲 (角川文庫) 寺山 修司
権力と支配 (講談社学術文庫) マックス・ウェーバー