西遊記がもっと面白くなるブックリスト~中国・西域・仏教史・紀行まで~

大唐西域記表紙

学生時代、平凡社刊行の中国古典文学大系シリーズ「西遊記」を読んだことで、中国史とシルクロードに興味を持ちました。今回は西遊記をより楽しむための、おすすめ書籍をピックアップしてみます。中国史と中央アジア史、インド史、仏教史、そしてシルクロード旅行記など。

SPONSORED LINK

西遊記はやっぱり安定の平凡社

西遊記には、完訳本と簡本の2種類があります。完訳本は原典を全文訳して掲載しているもので、簡本はいわゆるダイジェスト版ですね。翻訳は訳者によって当たりハズレが大きいのですが、西遊記に関しては平凡社刊の太田辰夫・鳥居久靖訳 「西遊記」が一番。

中国古典文学大系「西遊記」

大田・鳥居訳「西遊記」は講談調の文章が特徴で、リズムも良い。そしてお供3人の口上が格好いいのも人気の理由です。また、江流譚が収録されているのは現時点でこの平凡社刊行「西遊記」のみ。玄奘三蔵法師から西遊記に興味を持った方も、平凡社の太田辰夫・鳥居久靖訳から読んでみると良いのではないでしょうか。

▼平凡社への重版リクエストはここから

中国古典文芸体系31・32「西遊記」|平凡社公式サイト

演劇・朗読向きな魚返訳「西遊記」もおすすめ!

ちなみに、私が太田・鳥居訳「西遊記」の次に読んだのは、現代教養文庫ライブラリーの魚返善雄訳「物語・西遊記」。魚返訳は美猴王を「サルひこ王」、如意棒を「金タガの自在棒」にするなど、軽妙で独特の訳し方。この訳は演劇や朗読、子供への読み聞かせに向いていますね。

玄奘三蔵法師を知る本

玄奘三蔵 西域・インド紀行

西遊記の主人公である玄奘三蔵。物語の中ではすぐ妖怪に捕まってしまう頼りない僧侶ですが、史実の玄奘は果たして……?玄奘について最も手軽に、そして広く深く知ることができるのが、講談社学術文庫の「玄奘三蔵 西域・インド紀行」。本書は「大唐大慈恩寺三蔵法師伝」の前半を日本語訳したもので、長安から西域へ赴き、長安に帰還するまでの伝記です。

大唐西域記/玄奘

玄奘自身による西域旅行記、それがこの「大唐西域記」。が、旅行記といいつつ、記述は非常に簡素。玄奘は長安を出発し、河西回廊を通って天山北路を西進し、インドへ向かいました。その途中訪れた国の城郭や風俗について、終始淡々とした記述が続きます。正直、読み物としての面白さはありませんが、史料的価値は十分。西遊記が辿ったルートを思い浮かべながら読むのがおすすめ。

仏典はどう漢訳されたのかースートラが経典になるとき/船山徹

史実の玄奘三蔵は、長安に帰還すると皇帝・太宗の命を受け、大慈恩寺で持ち帰った経典の翻訳事業に取り掛かります。まだ仏教思想が根付いていなかった当時の中国。仏教に関する訳語も定まっていない中、玄奘はどのように原典のサンスクリット語を漢語へと翻訳したのか……。本書はその過程を想像する手がかりになります。

唐代と長安を知る本

西遊記の序盤は、唐の都・長安が舞台となります。玄奘が西域へ旅立つのは貞観十三年。つまり二代皇帝・太宗のころ。当時の長安の風景、そして風俗を知っておくと西遊記がより楽しくなります。

長安の春/石田幹之助

東洋文庫から刊行され、のち講談社学術文庫にもなった石田幹之助著「長安の春」。城壁で囲まれた長安は、当時東西10キロメートル、南北9キロメートルという巨大な大帝国でした。東西に置かれた市にはシルクロードを通って世界50カ国の物産が集まる、まさに世界の中心都市。こうした長安の交易、町並み、風俗を検証したのがこの「長安の春」です。司馬遼太郎著「空海の風景」にもその名が出る、長安研究の名著。

隋唐世界帝国の形成/谷川道雄

後漢滅亡後から五胡十六国時代を経て、隋唐帝国が成立していく過程の解説。古代中国の通史を頭に入れておくと色々役立つので、この本で流れを掴んでおくことをおすすめします。これも名著として非常に人気のある本です。

唐の行政機構と官僚/礪波 護

唐代どのようにして国が運営されていたか、そこに遣えていた官僚たちは何をしていたのか、というのがこの本の主題。のちの中国、そして日本の政治制度にも大きな影響を与えた「三省六部」について詳しく書かれています。中国の官制は知れば知るほど面白い。

唐両京城坊攷ー長安と洛陽/徐 松

条坊都市・長安と、その福都・洛陽。豊富な図版を用い、この2つの都市の城郭を解説しているのが本書です。整然と区画された長安の町並みは有名ですが、どこにどの坊があって……と確認したいときに非常に役に立つ。東洋文庫の学術書なのでやや難解ですが、図版を眺めるだけでも楽しめます。

大師の入唐/桑原隲蔵

京大教授の桑原隲蔵氏の公演を書き起こしたものが本書。「咸寧縣志」、「長安縣志」をはじめ、豊富な文献を元に当時の長安がどのような都市であったか想像しています。多少読みにくさはありますが、空海の行動を通してかなり詳細な考察が行われているので一読の価値あり。

円仁 唐代中国への旅/エドウィン・ライシャワー

遣唐使として中国に渡った僧、円仁の日記「入唐求法巡礼行記」を元に書かれた考察本です。当時の唐で行われていた祭事や風俗について詳しく知ることができます。

仏教史に関する本

西遊記には、玄奘三蔵法師をはじめ、観世音菩薩、釈迦如来など大乗仏教と関わり深い人物が多く登場します。物語の中では「真言(マントラ)」を唱える場面も出てきますし、玄奘はのちに長安で西域から持ち帰った仏典を翻訳し、数々の名訳を生み出すに至るわけですから、仏教史と仏教思想の知識があったほうが西遊記をより深く理解することができるはず。

わかる仏教史/宮元啓一

古代インドで生まれた仏教。その成り立ちをわかりやすく解説しているのが、宮元啓一著「わかる仏教史」です。仏教史初心者が最初に読むなら、これが一番分かりやすいと思います。ブッダの誕生から、初期~後期仏教、チベット仏教、中国仏教と順を追って解説しているので混乱しませんし。作中には「隋唐時代の仏教」の項もあり。

大乗起信論/宇井伯寿

大乗仏教を理解するうえで避けて通れない一冊。内容がまあまあ難しいので中級者向けです。まあ、この本は現代訳を読み、なんとなく理解しておく程度でも良いかと。

新説 般若心経/宮坂宥洪

「色即是空 空即是色」の8文字で有名な般若心経。本書はその一語一語を、サンスクリット語の原典に依って解説しています。今まで読んだ中で最も説得力のある解説で、経典の解釈がストンと落ちてきます。旧訳の鳩摩羅什訳、新訳の玄奘訳についても言及しているので、玄奘の訳した般若心経について知りたい人におすすめ。

中国仏教通史/塚本善雄

「中国仏教通史」塚本善雄|Amazon

中国仏教史の通史なら、塚本善雄の「中国仏教通史」がおすすめ。絶版なので古書でしか手に入らないんですが、中国仏教の流れを理解するには最もよいテキストだと思いました。古書店で見つけたら即買いすべき本です。本当に名著ですよ。

読むと西遊記がちょっと楽しくなる本

西遊記に影響を受けている本、シルクロードの旅行記、チベット関連の本など、これを読むと西遊記がより楽しめる(かもしれない)という本たちです。私の一押しは久生十蘭の「新西遊記」。青空文庫で読めるのでぜひ。ある意味、西遊記よりも凄まじい冒険譚です。

地球の歩き方(西安・敦煌・ウルムチ)

地球の歩き方 西安 敦煌 ウルムチ シルクロードと中国西北部 2018~2019

写真満載で、資料としても役に立つ地球の歩き方シリーズ。その「西安~ウルムチ」「中央アジアサマルカンドとシルクロードの国々」は西遊記好きならニヤニヤしてしまう内容です。文章を読むだけではいまいち想像できなかった西域の風景、本書を読むとその風景がはっきりと掴めるはず。

新西遊記/久生十蘭

サンスクリット経典を求めてチベットへ向かった実在の日本人僧侶「河口慧海」を題材にとったフィクション。病にかかったダライラマ八世に対して行われる治療のエグさ、ラマ教徒が行う拷問の凄まじさ、十蘭ワールド全開の悲壮なラストシーンと見所満載。私はこの本を読んでからチベットとチベット仏教史に興味がわきました。そして名文家・久生十蘭の美しい文章をとくとご覧あれ。

唐代伝奇集/前野直彬

西遊記が好きな人は絶対好きであろう唐代伝奇集。芥川龍之介「杜子春」の元ネタも収録されているので、中国文学独特の摩訶不思議な世界に浸ってみてください。

ひとたびはポプラに臥す/宮本輝

鳩摩羅什に惹かれた作家の宮本輝が、北陸新聞社の協力を受けて中国・西安からパキスタンイスラマバードを旅します。鳩摩羅什が歩いたシルクロード、その距離約6千7百キロ。その記録を綴った旅行記が本書。

シルクロードの旅行記はこの他にもたくさんあります。どれも面白い。

1、私の西域紀行/井上靖

2、深夜特急〈4〉シルクロード/沢木耕太郎

3、さまよえる湖/スヴェン ヘディン

SPONSORED LINK

あわせて読みたい



トップへ戻る