先日のkindleセールで瓜生中著「知っておきたい仏像の見方」を購入してみました。読了時間は1時間くらい。同著者の「はじめての仏像鑑賞入門」に比べると、こちらは本当に超初心者向けで、仏像について浅く広く知りたい方向けという感じの印象。図版も少なく、正直ちょっと物足りない内容でしたが、その内容をざっくりご紹介したいと思います。
まず「知っておきたい仏像の見方」の目次がこちら。「仏像とは何か?」という基礎知識から、台座や光背といった仏像の特徴を五章構成で解説しています。
【目次】
第一章 仏像とは何か
第二章 仏像にはなぜ多くの種類があるのか?
第三章 仏像の顔や身体から読み解く仏教の教え
第四章 台座・光背・衣・座法などに見る仏教の教え
第五章 印と持物で知る仏教の教え
目次
第一章 仏像とは何か
明治時代以降、芸術品・美術品としての価値が高まった仏像。第一章では、岡倉天心とアメリカの美術家フェロノサが見た法隆寺の秘仏・救世観音像のエピソードや、仏像鑑賞のバイブル的扱いの和辻哲郎著「古寺巡礼」などを紹介。今は美術品のイメージが強い仏像ですが、元々は信仰の対象として造られたものであり、そこに仏像の第一義的な価値があると著者は述べています。
偶像否定の観念が強かった初期仏教当時、信仰はほとんど仏塔や仏足石、法輪、菩提樹などに向けられていました。しかし紀元前一世紀半ば、大乗仏教の興りも手伝って、インド西北方のガンダーラで世界最初の仏像(出家直後の釈迦をモデルにした釈迦如来像)が造られます。ガンダーラで造られた仏像は西洋人的な顔立ちをしていますが、これはガンダーラ地方に定住していたギリシャ人たちが生み出したヘレニズム文化の影響とか。
ガンダーラで世界最初の仏像が造られると、その半世紀後にはインド中部のマトゥーラでも仏像が造られました。マトゥーラで造られた仏像は、ガンダーラと違って東洋人的な風貌をしているのが特徴。以降、インドの各地で次々に仏像が造立され、シルクロードを通って中国・日本にも仏像が伝えられます。日本に初めて伝えられた仏像は、金胴の釈迦如来像。「古事記」や「日本書紀」によると、538年ごろ、百済の聖明王の使者が金胴の釈迦如来像と経典などを携え日本にやってきたと記されているので、こうした史書も併せ読んでおくと、より仏像の理解が深まるかも。
第二章 仏像にはなぜ多くの種類があるのか?
第二章は仏像の種類についての解説。仏像を基本的なパターンに分け、1つずつ丁寧な説明を加えています。
【仏像の基本的な分類】
- 如来(仏)像……出家直後の釈迦をモデルにしたもの
- 菩薩像……出家する前の釈迦をモデルにしたもの
- 明王像……密教の中心とされる大日如来の化身。仏教に帰依しない人間を憤怒の表情で説き伏せる
- 天(天部)……インドの神々が仏教に取り入れられた姿。梵天、四天王、鬼子母神など
- 羅漢・高僧……羅漢、達磨大師など。日本で生み出された神仏習合の仏像「蔵王権現像」もここに分類される。
1、さまざまな如来像
仏像の中で最もメジャーな「如来像」には、釈迦如来像、阿弥陀如来像、薬師如来像などの種類があります。「南無阿弥陀仏」を唱えた者を極楽浄土へ連れて行くのが阿弥陀如来。浄瑠璃世界という浄土を持ち、万病を治す現代利益の如来として信仰を集めたのが薬師如来。大乗仏教が盛んになるにつれ、人々はより多くの者を救ってくれる如来を求めた結果、阿弥陀如来や薬師如来が誕生したというわけですね。
2、変化身を使う観音菩薩像
観音菩薩は、「三十三の変化身を現して衆生を救う」とされています。二世紀後半、ガンダーラ地方で「一面二臂」の聖観音が造られ信仰を集めていきますが、やがて「一面二臂では多くの人々の願いを聞き入れ救うことは難しいのではないか」という考えが広まる。その結果生み出されたのが、「十一面観音」や「不空羂索観音」、「千手観音」でした。
第三章 仏像の顔や身体から読み解く仏教の教え
第三章では、釈迦如来の風貌や特徴を示した「三十二相・八十種好」について解説しています。悟りを開いた釈迦は、一般的な人間と異なる身体的特徴を多く持っており、これらの特徴は、もちろん仏像にも反映されています。
第四章 台座・光背・衣・座法などに見る仏教の教え
第4章では、仏像の特徴ともいえる台座や光背についての解説。本書のハイライトです。
1、台座について
仏像の台座で一番多いのは「ハスの花」で、このような台座を「蓮華座」と呼びます。仏教では蓮池の泥は煩悩、蓮は悟りの象徴とされ、やがて仏像の台座の定番となりました。蓮華座には、一重~八重まで多様な様式があり、その大きさも様々。中には荷葉を伏せた形のものもあるとか(荷葉座)。
2、光背について
仏像には「光背」と呼ばれるものがあります。光背は三十二相の一つ「丈光相」に基づいて造られたもので、ガンダーラで造られた仏像の光背は頭の後ろに円形の板があるだけのシンプルなものが多い。時代が下るにつれ、頭光と身光を組み合わせた「挙身光」とよばれる構造が生まれ、これが一般的になったと言われています。蓮弁光、火焔光、円光などの光背についてしることができるのが本章。
3、立像と座像について
仏像には、立像と座像があります。
■主な立像
- 正立像(直立しているもの)
- 侍立像(来迎の阿弥陀如来のような前傾姿勢)
- 舞勢(足を振り上げ、衆生救済に逸る気持ちを表現したもの)
■主な座像
- 結跏趺坐(座禅のときの基本姿勢。結跏趺坐はさらに、降魔座と吉祥座の2つに分けられる)
- 半跏趺座(結跏趺坐と違い、片足だけを太ももに乗せているもの)
- 椅座(台に座っているもの。両足を揃え下げているものを善跏椅座、右足を曲げて左膝に乗せているものを半跏椅座と呼ぶ。半跏椅座は菩薩像のみにみられる特徴。)
4、仏像の衣について
仏教の修行僧は「三衣」と呼ばれる衣を身につけています。仏像の中では、如来像のほとんどがこの三衣を着用しています。
三衣には二通りの着方があり、1つは両肩を覆う「通肩」。もう1つが、左肩だけを覆って右肩を露出する「偏袒右肩」。偏袒右肩は目上の人に対するときの着方とされており、初期に造られた釈迦如来像の衣は通肩で造るのが原則でした。しかし、時代が下るにつれて偏袒右肩の如来像も造られるようになり、中国では独自の衣装も造られています。
菩薩像は裾と天衣と呼ばれる衣装をまとい、明王像は上半身に条帛と呼ばれる布かけ、下半身は裾。天の像は唐代の貴族風衣装で、四天王は貴族風衣装の上に甲冑を着ています。
第五章 印と持物で知る仏教の教え
1、仏像の印
仏像の手はそれぞれ複雑な「印」を結んでいます。禅定印・説法印・施無畏印・与願印・降魔印の5つを「釈迦の五印」とよび、これが仏像の印の基本形になります。
そして、独特な形が覆い密教の印、たとえば降三世明王の降三世印、軍茶利明王の跋折羅印の由来や形を説明。「来迎の阿弥陀如来」は来迎のさいに九種の印(九品来迎印)を使い分けるとされ、本章ではこの九品来迎印の形についても詳しい解説があります。
2、仏像の持物
仏像はさまざまな物を手に持っており、これを「持物」といいます。持物も印と同じで、仏教の教えを読み解く重要な要素です。
観音菩薩の持物に覆いのが蓮華。蓮華は仏教における「悟り」の象徴で、文殊菩薩はこの蓮華の上に経巻、日光菩薩は日輪などを載せています。如意観音は如意宝珠という珠を持ち、地蔵菩薩は錫杖、楊柳菩薩は柳の枝などをぞれぞれ手にしている。千本の手を持つ千手観音はさらに宝鉢、楊枝、阿弥陀如来の化仏、八咫烏が描かれた日精摩尼・月精摩尼、傍牌、蒲桃、羂索、煩悩を打ち砕く最強の武器・金剛杵などを手に持っており、本章では、この持物1つ1つの解説があります。
……というわけで、「知っておきたい仏像の見方」を、ざっくりご紹介してみました。この一冊で仏像の全てが分かる!とまではいきませんが、同著者の「はじめての仏像鑑賞入門」や博物館の図録と併せて読めば、仏像に関してかなりの知識が身につくのではないかと。