民事訴訟で使う反訳書の書き方【サンプル文書あり】

民事訴訟を行うさい、有力な証拠の1つとなるのが録音データ。被告との通話や会話を録音したデータを証拠として提出することは、「言った言わない」がしばしば争点となる民事訴訟において、とても重要な意味をもってきます。今回はこうした録音データを裁判の証拠として提出する方法と、「反訳書」の作り方をご紹介します。

反訳書とは

反訳書とは、録音した会話を文字に書き起こしたもの。訴訟を行うさい、通話記録を証拠として提出するには、通話音声を書き込んだCD-Rと、それを文章に書き起こしした反訳書をセットで提出しなくてはなりません。

音声データは、USBに移す、CD-Rに書き込むなどの提出方法があるので、一応、自分が裁判を起こす管轄の裁判所に事前確認しておくと良いでしょう。裁判所内のパソコンは未だにWindow Vistaを使っている所があるくらいで(2017年1月時点)、そのセキュリティはだいぶガバガバらしいので(法テラスの弁護士談)、USBではなく、ウイルス感染のリスクがないオーディオCD形式で提出するのが一般的ですし、その方が裁判所にも喜ばれます。

反訳書は、見やすさを考慮しつつ最低限のルールさえ守っておけば、どのような書式でも問題ありません。テープ起こしとほとんど変わらないので、パソコン操作に慣れている方ならすぐに作れるはずです。では、反訳書作成をするさいに、最低限守るべきルールを解説してきます。

最低限守るべき反訳書作成のルール

「あの」「えーっと」などのケバも詳細に書き起こす

人と会話する場合、発言する前に「えーっと……」「あの、その」といった言葉が多発しますよね。このような呟きは「ケバ」と呼ばれ、一般的なテープ起こしでは読みやすさを考慮して省かれる場合がほとんど。このケバを取る作業はそのまま「ケバ取り」と呼ばれます。

一方で、「えーっと」「あの」といった呟きを省かず、一字一句に至るまで詳細に書き起こす作業を 「素起こし」 と呼びます。裁判に証拠として提出する反訳書には何よりも「再現性」が求められるため、細かいニュアンスが文面でも伝わるよう、ケバ取りをしない「素起こし」の体裁を取ります。ケバ取りをした反訳書だと、証拠として認めてもらえない場合もあるので気をつけましょう。

記号は「?」以外使わない

会話中、相手が「ふざけるな!」と怒鳴ったり、「~されましたか?」と質問を投げかけてきたとします。一般的な文章では、語気を荒げた場合は文末に「!」をつけて強調し、質問された場合は「?」をつけますよね。ただし、反訳書を作るさいは「?」以外の記号は使用を避けたほうが良いでしょう。

発言者がどのようなニュアンスで発した言葉なのかを再現することは大切です。しかし自分には「怒鳴った」ように聞こえても、相手からすると「少し声を大きくしただけ」の場合もあるわけです。それなのに「!」を使ってしまっては、反訳書を読んだ裁判官にも「怒鳴ったに違いない」という先入観を与えてしまい、裁判における公平性が失われてしまいます。1番良いのは、反訳書では「!」を使わず、口頭弁論のさいに「ここは怒鳴られた」と自分で説明することですね。

ただし、質問の場合は「~したんですか?」と「~したんですか」ではニュアンスに微妙な違いが生まれ、裁判官に要らぬ混乱を与えてしまいます。前者だと語尾が上がっているので「~したんですか?(質問)」、後者は「~したんですか(確認)」と、全く異なる聞こえ方をし、これでは誤解を与えてしまいかねません。質問の場合は文面に「?」をつけましょう。

ポイント! 【反訳書に使わない表現】

「!」以外にも反訳書に使わない表現があります。それは三点リーダー「……」や、語尾を伸ばしたときに使われる「~」など。このような記号を使うと表現が曖昧になってしまうので、相手が言い淀んだり、沈黙した時でも、その発言だけを書き起こすようにします。

整文を行わず、音声のままを書き起こす

議事録やインタビューなどのテープ書き起こしでは、最後に読みやすいよう文章を整える作業、いわゆる「整文」を行ってから納品するのが一般的です。たとえば、ら抜き言葉の「見れる」を「見られる」と修正するような作業が、この整文にあたります。

再現性が重要な意味を持つ反訳書では、整文を行わないのが鉄則。たとえ相手が「ら抜き言葉」を使ったり、明らかな誤用をしている場合でも、発言を修正せず台詞をそのまま書き起こすようにしてください。整文を行うと、文章を改ざんしたと思われ、結果的に裁判で不利になるケースや証拠として認められないケースもあります。

発言者の前には先頭番号をつける

反訳書は原告と被告の会話を交互に書き起こしていきます。訴状を書くとき、反訳書から会話文を引用する場合もあるので、自分や被告、そして裁判官が該当箇所を見つけやすいよう、発言者の前には先頭記号(数字)を振っておくのがベター。番号を振ることで、訴訟もスムーズに進みます。

WordやLibre Office Witerに代表されるエディタソフトには、先頭記号を自動挿入する機能が備わっています。録音音声を全て文字に書き起こし誤字脱字を確認したら、最後に忘れず先頭番号を振っておきましょう!

行間は1.5行に調整

反訳書を作るときは、見やすさを考慮して行間を少しだけ空けておきます。1行と1.5行では読みやすさに大きな違いが出てくるので、これも忘れず調整を行いましょう。

【1行と1.5行の反訳書サンプル】

1反訳書の書き方

 反訳書の書式サンプル

以下に掲載するのは、江戸川乱歩の対話体小説「指輪」を元にして作った反訳書のサンプルです。下に書式のポイントをまとめているので、ご参考まで。

2反訳書の書き方

ポイント! 【反訳書の書式まとめ】

  1. 訴状とともに裁判所へ提出するさいは、1枚目に提出日と原告・被告氏名、さらに「◯◯裁判所民事課御中」と記載する。
  2. 「甲◯号証(音声データの号証)の反訳」と書く
  3. 発言者の前には先頭番号をつける
  4. 複数枚になる場合は、ページ番号をつける
  5. 会話には「!」や「……」を使用しない
  6. 反訳書もいわゆるビジネス文書なので、フォントは明朝体

反訳書は音声を文字に起こすまでが大変ですが、一旦書き起こしてしまえば、あとは簡単。民事調停や弁護士をたてるほどではない少額訴訟を行うとき、自分にとって有利となる音声データがあれば、面倒臭がらずサクッと反訳書を作ってのぞみましょう!